セントロメアの反復配列の導入によりHAC(右下の顕微鏡写真では赤)が形成される48応用を見据えた染色体構造・機能の基礎研究 研究所開所当初から設置されていた染色体の機能に関わる遺伝子を研究する研究室の後継として、ヒトの人工染色体を用いて染色体の構造や機能の基礎研究や応用研究を行う細胞工学研究室(後の改組により染色体工学研究室)が2009年に開設されました。 染色体のセントロメアは、細胞分裂の際に細胞内の微小管と相互作用して、染色体の動きを制御しています。このセントロメアが正しく機能することで、ヒトでは46本の染色体のセット(=ゲノム情報)が安定して次世代細胞へと分配されます。ヒトや動物、植物のセントロメア領域では、短い塩基配列が多数反復するDNA(ヒトではアルファ(α)サテライトDNAと呼ばれる)の巨大領域に、いくつものタンパク質が集合してセントロメアとして機能しています。 私たちは、ヒトのセントロメアからクローン化したαサテライトDNA、更には人工合成したαサテライトDNAを用いて、ヒト細胞中で47本目のミニ染色体(=ヒト人工染色体(HAC))を人工的に作り出すことに世界で初めて成功しました。このHACは、セントロメアで特殊なクロマチン構造が形成される過程について、どの段階からでも細胞内で「作って調べる」ことができる極めて優れた方法論でもあります。 当研究室ではこのHACを利用してセントロメア形成のメカニズムや染色体分配機構の解明を進めました。また、HACは、マウスの胚幹細胞へ移入した後、この胚幹細胞がマウスの個体に成長する間にも細胞内で維持させることができます。そこで私たちは、このHACへ、これまでは不可能であった長さの巨大な遺伝子を組み込んで細胞へ導入するベクターとして、遺伝子治療や物質生産にも利用する研究も進めてきました。人工合成したαサテライトDNAから作り出された人工染色体は人為操作可能な機能を付加でき、これを用いた手法は、染色体の基礎研究のみならず、動物や植物細胞を用いた物質生産にもインパクトを与えました。(舛本 寛)人工染色体の研究開発
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