トマトゲノム解読国際共同プロジェクトの担当染色体と2008 年時点の進捗状況42ナス科のモデル植物の国際的な共同研究 トマト(Solanum lycopersicum)は世界の多くの国で栽培されている、多様な食文化を支える重要な野菜です。シロイヌナズナ(30ページ参照)に続きイネ(イネ科)のゲノムが解読された時期(2004年)に、これらとは進化的に離れたナス科のモデル植物としてトマトのゲノムを解読するプロジェクトが提案され、10カ国が参加する国際共同プロジェクトとして2004年に正式に開始されました。 日本からはかずさDNA研究所と農林水産省・野菜茶業研究所(当時)の研究グループが参加し、12本あるトマトの染色体のうち、8番染色体のDNA配列解析を担当することになりました。当研究所と野菜茶業研究所のグループは連携して配列解析を進め、プロジェクトの終了目標として設定した2008年までに、担当領域の配列解析を終了しました。 しかしながら、一部の参加国、特に、2本の染色体を担当した中国と米国のグループの進捗が著しく遅れたため、2008年でのプロジェクトの終了には程遠い状況でした。毎年開催されるプロジェクトの進捗会議でこの状況を予想していた私たちは、2006年から独自でゲノム全体をカバーするDNAマーカー、および、遺伝的連鎖地図の開発や、トマトゲノムの遺伝子領域の概要配列の解析の取り組みを進めていました。ヨーロッパの参加国からも国際共同プロジェクトの遅れを取り戻す動きがあり、オランダ、イタリアのグループを中心に、大量のDNA配列情報を得ることができる第二世代のシークエンサーを用いてトマトゲノム全体(9億塩基対)の配列情報を集める計画が提案され、これらの配列情報と、我々が提供した遺伝子領域の配列情報を合わせてトマトゲノム全体の配列情報としてつなぎ合わせることにより、国際共同プロジェクトの終結を目指しました。私たちは、蓄積を進めていたDNAマーカーと連鎖地図の情報を利用して、配列のつなぎ合わせの確認作業を中心に担当しました。そうしたことからプロジェクト全体への貢献が評価され、2012年に発表した成果論文の筆頭著者になりました。 最終的に、ゲノム解析の対象とした栽培種トマト(Heinz 1706)のゲノムの86%に相当する7.8億の高精度なDNA配列情報を解読し、このうち97%に相当する7.6億のDNA配列情報をトマトの12本の染色体上に位置付けることができました。このトマトゲノムの配列情報は、その後ナスやトウガラシなど、ナス科作物全般の育種に大きく貢献しています。(佐藤 修正)トマトのゲノム解読
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