挿入変異体の一例(花弁形態異常)タグラインの栽培(幼体)タグラインの栽培(成体、鉢ごとに種子の飛散を隔離)37モデル植物の遺伝子機能解析をサポート 2000年12月にモデル植物であるシロイヌナズナのゲノム解読(30ページ参照)の論文が発表され、全遺伝子の構造が明らかになりました。これらの情報を利用して個々の遺伝子の機能解析を進める際には、多数のタグライン(トランスポゾンやT-DNAがゲノム内にランダムに挿入した変異体系統群)を整備し、その中から目的の遺伝子の破壊株を分離することが重要なステップとなります。しかしながら、大学等の個々の研究室で多数のラインを作製、維持することは、空間、労力面での限界から容易ではありませんでした。そこで、かずさDNA研究所は、国内の何ヶ所かで作製されたタグラインを集積し、その有効利用を促進することを目的として、シロイヌナズナタグライン共同利用システムを設立しました。 このシステムでは、タグラインを所有する大学や研究機関の研究グループから当研究所にラインを寄託してもらい、私たちは寄託を受けたラインを栽培し、各植物体からDNA抽出を行った上で、PCRスクリーニングに必要なDNAプールを作製しました。システムを利用する研究者は、私たちから一次DNAプールの送付を受けて、各自の目的の遺伝子に挿入があるラインをPCRでスクリーニングし、挿入変異が含まれるプールを同定します。次に、対応する二次DNAプールを受け取り、再度のPCRスクリーニングによって目的の挿入ラインを特定します。 このスクリーニングシステムの構築にあたり、私たちは独自にタグラインの構築も行い、5万ラインを整備しました。これらのラインも含めて最終的に7万5千ラインから挿入変異体をスクリーニングできる体制を整えました。 このスクリーニングシステムには、最終的に300名を超える研究者の利用があり、数多くの重要な遺伝子の挿入変異体が同定されました。そして、それらの変異体を用いた研究により、50本を超える成果論文が発表されました。これらの成果論文の中には、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅 良典 東京工業大学栄誉教授のグループとの植物のオートファジーについての共同研究も含まれています。 このシステムを含めた当研究所の貢献に対して、植物生理学会、および、日本植物細胞分子生物学会から表彰を受けています。(佐藤 修正)シロイヌナズナ変異体大規模スクリーニング事業
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