シロイヌナズナのEST情報31多種多様な植物の遺伝子情報を解明 かずさDNA研究所では、2000年を挟んだ数年間、植物EST(Expressed Sequence Tags)の収集を行いました。ESTとは生物の様々な器官や成長段階で転写されているメッセンジャーRNA(mRNA)の5‘末端や3’末端の塩基配列を大規模に解析するもので、ゲノム塩基配列上の遺伝子領域の推定やどのような遺伝子がどの程度発現しているかを計測することができます。また、この過程でクローン化されたcDNA(complementary DNA)は、遺伝子機能解析や、さらには数千クローンのcDNAを整列化したマイクロアレイによる遺伝子発現解析にも利用することができます。 私たちがEST解析の対象とした植物種は、シロイヌナズナ、ミヤコグサ、クラミドモナス、スサビノリ、アカクローバの5種です。ESTやcDNAクローンのようなゲノム研究の基盤整備を研究者が個別に行うのは効率が悪いため、対象とする植物種は国内研究者コミュニティの要望を集約する形で決められました。品質の高いcDNAライブラリーの作製には精製度の高いRNAが必要な一方、植物種によっては純度の高いRNAの抽出が難しく、試行錯誤を重ねました。また、冗長性を省いて効率よくユニークな配列情報を収集することも大きな課題であったため、cDNAライブラリーの作製方法や配列分析の方法も工夫しました。植物を器官別に細かく分けてライブラリーを作製するのはもちろんのこと、存在量の多いcDNAを除くための均一化処理などを行いました。さらに、クローニング過程で失われてしまうことが多い長鎖cDNAをとくに選抜したライブラリーも作製しました。また、似た配列をもつ遺伝子ファミリーを区別できるように、cDNAの5’側だけでなく、3’側からのシークエンスデータも蓄積しました。 収集した塩基配列データは、国際塩基配列データベース及び当研究所のデータベース「Kazusa Transcript DataBase(https://www.kazusa.or.jp/database/)」から公開されています。また、cDNAクローンも広く国内外に配布され、遺伝子の機能解析に貢献しました。(浅水 恵理香)植物遺伝子の大規模解析
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