30周年記念デジタルブック
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シロイヌナズナゲノム解読の国際協調プロジェクト会議参加メンバー30シロイヌナズナの染色体と分担シロイヌナズナ世界初の植物ゲノム解読に成功 かずさDNA研究所は、1996年に始まったシロイヌナズナゲノム解読国際プロジェクトに日本の代表として参画し、欧米の5グループと協働して2000年末に植物で初めて全ゲノムの構造を明らかにすることに成功しました。 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、アブラナ科に属する双子葉植物です。実験室内で栽培して2ヶ月程度で次世代の種子を得ることができ、既知の高等植物のなかで最もゲノムサイズが小さい(約1億3000万塩基対;130Mb)ことから、植物分子遺伝学の材料として利用されてきました。植物研究においては、穀物などの実用植物が重要なターゲットですが、世代時間の長さ、ゲノムの複雑さ(倍数性やゲノムサイズが大きい等)、DNA導入を含む技術開発の遅れなどのさまざまな問題があり、一部の例外を除いて分子遺伝学の対象になりにくい欠点があります。一方、シロイヌナズナではこれらの問題点が解決されており、また耐病/耐害虫性、栄養要求性、生長性、開花時期など農業上重要な性質(に関わる遺伝子)が共通しているところもあります。そのため、シロイヌナズナの研究は産業的な重要性も高く、有用遺伝子の単離が精力的に進められていました。 当研究所で1994年に開始したラン藻ゲノムプロジェクト(23ページ参照)も完了が近づき、後継の解析対象を検討していた1996年初め、京都大学理学部の岡田 清孝教授(当時)から、モデル実験植物であるシロイヌナズナのゲノム解読国際プロジェクトへの参加について打診がありました。当時、岡田教授はシロイヌナズナ国際委員会の日本代表を務めておられ、1990年から欧米の研究グループを中心に準備が進んでいたシロイヌナズナのゲノムプロジェクトを国際協調プロジェクトとするため、日本からの参画が期待されているというお話でした。そこで、高浪 満所長(当時)と協議の上、前向きに検討したい旨回答しました。その後、1996年夏に、プロジェクトに参画する全グループ(日本からはかずさDNA研究所、アメリカ合衆国からTIGR、Washington大学、Stanford大学、Cold Spring Harbor研究所などを含む3グループ、ヨーロッパからJohn Innes Centre、Genoscopeなどを含む2グループ)の代表が米国ワシントンD.C.にあるNational Science Foundation(米国国立科学財団)に集まり、分担する染色体領域の協議や解析方法、進行状況とデータの公開原則、データ精度の目標(99.99%以上)などの確認等が行われ、正式に国際協調プロジェクトがスタートしました。当初の終了目標は2004年でしたが、解析技術の進歩と米国の研究費の増額によって加速し、1999年には短い2本の染色体(2番、4番)が完了、2000年秋には全ゲノムの解読を終了することができました。当研究所は、国ではなく千葉県が資金を提供するという極めて稀な体制でしたが、最終的に単独で全ゲノムの23%に相当する約2800万塩基対(28Mb)の解読を行いました。 本プロジェクトの結果、大規模な染色体重複や転移、遺伝子重複など、植物ゲノムの形成過程を示す事実が多数明らかになりました。2000年以後現在まで、ゲノム解読技術の進歩によって、数多くの実用植物のゲノム構造が明らかにされてきましたが、シロイヌナズナのゲノムがその基盤として用いられる状況は今も変わりがありません。今後、ゲノム構造情報を利用した遺伝子の機能解析や有用遺伝子の単離がさらに加速することによって、植物科学や育種等技術開発の活性化が期待されます。(田畑 哲之)シロイヌナズナのゲノム解読

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