30周年記念デジタルブック
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哺乳動物cDNA解析プロジェクトの2000年当時の国際状況24(長瀬 隆弘、小原 收)ヒト遺伝子の大規模解析世界最大クラスのヒト遺伝子コレクション 1990年に始まった国際ヒトゲノム計画は、ヒトの全遺伝情報を手にして疾病を克服することを目的としましたが、膨大な時間と労力がかかると予想されていました。一方、全ゲノムではなく遺伝子部分だけを解読する方が近道だとして、遺伝子部分に相当するmRNAの配列情報をもつ相補DNA(complementary DNA, cDNAと略)解析も世界中で検討されていました。1993年には、ヒト脳から一度に1,600種類ものmRNAの部分配列が解読されたとの報告がなされ、遺伝子探索競争の時代の火蓋が切って落とされました。しかし、かずさDNA研究所のヒトcDNAプロジェクトは、そうした国際的な潮流に流されず、究極の目的であるヒトゲノムにコードされているタンパク質のカタログ構築のためのヒトcDNA全長解析プロジェクトに世界に先駆けて取り組みました。特に、解読が困難であり、機能的にもほとんど未解明である未知の巨大タンパク質を同定するために長鎖cDNA解析にチャレンジし、ヒト遺伝子の一割に相当する約2,000個の遺伝子(KIAA遺伝子と呼ばれています)の構造を世界で初めて決定しました。研究所の開所から2000年にかけて実施されたこのプロジェクトの成果が、後に事業化や医療応用のための基盤となりました。 2000年初めにヒトゲノム配列が報告されると新規遺伝子の探索競争に一段落がつき、次の研究の焦点はそれぞれの遺伝子が何をしているかを調べることに移っていきました。当研究所では遺伝子探索の結果として、国際的にも極めてユニークなヒトタンパク質を合成するための材料となるcDNAクローンを蓄積していました。そこで、遺伝子の機能を解析するために必須の「試薬」として使える形でヒト遺伝子クローンを蓄積するプロジェクト(完全長ヒトcDNAリソースプロジェクト)を開始し、当研究所が世界で最長のcDNA配列を報告したKIAA遺伝子のクローンリソースを独自に開発しました。この成果は国際的にも注目を集め、アメリカ国立衛生研究所グループらによる国際的なヒト全遺伝子の発現クローン調製コンソーシアムに参加し、結果として当研究所は、KIAA遺伝子だけでなく、ヒト遺伝子にコードされるほぼすべてのタンパク質を合成するための遺伝子資源を保有することができました。この成果は、論文化だけでなく、あとに続く産学官連携プロジェクト(35ページ参照)のコアリソース、事業化のための最も重要なシーズとして活用されてきています。

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