30周年記念デジタルブック
30/222

ラン藻の環状ゲノム上の遺伝子地図Synechocystis sp. PCC 68033,573,470塩基対23左から、Anabaena、ThermosynechococcusSynechocystis sp. PCC 6803 の走査電子顕微鏡写真(上)と透過型電子顕微鏡画像(下)光合成生物の全ゲノム構造解明に世界で初めて成功 かずさDNA研究所の開所にあたり、世界初のゲノム研究専門機関としてその存在をアピールできる大型プロジェクトを検討していたところ、名古屋大学の杉浦 昌弘教授(当時、当研究所特別客員研究員)からラン藻のゲノム解読はどうかとご提案いただきました。ラン藻は、シアノバクテリアとも呼ばれる細菌の一種で、酸素を発生する植物型の光合成を行う能力をもっています。ラン藻は、何十億年も前から地球上で太陽光エネルギーと炭酸ガスと水を元に酸素を生成し、その結果、酸素が大気中に蓄積されました。そして、約24億年前には「大酸化イベント(GOE : Great Oxidation Event)」が起り、酸素呼吸する生物の繁栄と進化につながったと考えられています。また、植物の葉緑体は、真核細胞に共生したラン藻から派生したものと考えられています。 私たちは何種類かのラン藻標準株を検討し、DNA導入実験が可能な単細胞性のラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803を選定してゲノム解読作業を進めました。当時、すでに大腸菌と枯草菌については国際分担による全ゲノム解読プロジェクトが進行していましたが、私たちはこれらに先んじて、1996年秋に全ゲノムの高精度解読を完了することができました。これは、全ゲノム解読としては世界で3番目(1,2番目は、より小型のゲノムでデータの精度も低かった)、光合成生物としては世界初の成果でした。 得られた塩基配列データを分析した結果、Synechocystis sp. PCC 6803の環状のゲノムは3,573,470塩基対からなり、3,000以上の遺伝子が含まれていることがわかりました。これらの遺伝子の構造を解析することによって、光合成・光応答・窒素同化・ストレス応答など、さまざまな生命活動に関わる遺伝子が明らかになりました。ゲノムの情報により、ラン藻が生きるための基本的な機能への理解が深まり、ラン藻を用いた研究がより効率よく進められるようになったのです。また、私たちが構築したラン藻のゲノムデータベース(CyanoBase)により、ゲノムや遺伝子の情報を世界中の研究者で共有できるようになったことで、ラン藻の研究がさらに大きく展開し、新しい知識が広まる助けとなりました。 その後、私たちは、繊維状で窒素固定能をもつAnabaena sp. PCC 7120(2001年)、好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatus BP1(2002年)、光合成の場となるチラコイド膜を持たない原始ラン藻Gloeobacter violaceus PCC 7421(2003年)のゲノムを次々と解読し、多彩な能力を持つラン藻の多様性解明に大きく貢献しました。(金子 貴一、田畑 哲之)ラン藻のゲノム解読

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る