不活性X染色体の形成メカニズムを解明しました。

2017/6/9

研究開発

ヒトを含む哺乳類は、メスが性染色体としてX染色体を2本持つのに対し,オスはX染色体とY染色体をそれぞれ1本ずつ持っています。そのためメスの細胞はX染色体にある遺伝子をオスの2倍持つことになりますが、この遺伝子量(転写量)の差を補正するために、メスの2本あるX染色体のうちの1本を働かなくする「X染色体不活性化」というしくみを進化の過程で獲得しました。

X染色体不活性化で重要な役割をしているのが、X染色体上にあるXistというタンパク質をコードしない遺伝子です。Xistは、2本のX染色体のうち一方からのみ不活性化に先立って発現し、転写産物であるXist RNAがそのX染色体を覆うように結合することで、染色体全体をヘテロクロマチン化して遺伝子発現が起きないようにしています。

このX染色体がヘテロクロマチン化されるしくみについてはまだよくわかっていません。そこで研究グループは、細胞の分化や発生の過程において、遺伝子領域をヘテロクロマチン化することにより遺伝子発現を抑制するのに働くポリコーム群タンパク質複合体が、この過程でどのように働いているのかを明らかにするために一連の実験を行いました。

その結果、Pcgf3とPcgf5を含むポリコーム複合体が、最初にXist RNAの存在下でヒストンH2Aを修飾(ユビキチン化)することにより、他のポリコーム群タンパク質の集合が始まり、ヘテロクロマチン化が起こることが示されました。Pcgf3とPcgf5がX染色体不活性化の過程で重要な役割をしていることは、両方の遺伝子を欠いたマウスがメスのみで胚性致死となり、その細胞ではX染色体不活性化がみられなかったことからも裏付けられています。

この研究でかずさDNA研究所は、遺伝子破壊マウスの作製を行いました。 この研究は、X染色体不活性化のしくみを明らかにするための大きな足掛かりとなると考えられています。

研究成果は、2017年6月9日付けのScience誌で公開されました。この研究は、英国オックスフォード大学、理化学研究所、かずさDNA研究所の共同研究です。

更に詳しくお知りになりたい方は、理化学研究所のHPをご覧下さい。
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170609_2/

論文情報:
Almeida M, Pintacuda G, Masui O, Koseki Y, Cerase1 A, Brown D, Mould A, Nakayama M, Nesterova T, Koseki H, Brockdorff1 N.
PCGF3/5-PRC1 initiates Polycomb recruitment in X chromosome inactivation.

掲載誌:Science 09 Jun 2017: Vol. 356, Issue 6342, pp. 1081-1084
doi: 10.1126/science.aal2512

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