セントロメアをどのようにゲノムDNAと関連させるのか、新たな進化的発見が得られました。

2016/6/23

研究開発

公益財団法人かずさDNA研究所では、これまでに、細胞増殖を通じて安定に分配維持されるヒト人工染色体(HAC)の研究や、染色体分配に関わるセントロメア構造の研究を行っています。

セントロメア領域には、染色体分配やDNAの凝縮に関わる数多くのタンパク質が集まっています。このうち、CENP-Bタンパク質は、セントロメア領域の反復DNA配列にあるCENP-B ボックスと呼ばれる17塩基対の配列に結合するタンパク質で、セントロメアの構造形成に関わることが知られています。

ヒトやゴリラ、チンパンジーのセントロメア領域の反復DNA配列中には、CENP-Bボックスが存在しますが、ニホンザルやアフリカミドリザルなどの進化的に古いサル(旧世界ザル)には見つかっていないことから、長らく、CENP-Bボックスは、霊長類ではヒト科にのみに存在すると考えられていました。

 

2016年発表のBiology Letters誌の論文において、私達は、南米に棲息する新世界ザル、コモンマーモセットのセントロメア反復DNA中にCENP-Bタンパク質が結合可能なCENP-Bボックスが存在することを報告しました。

今回、さらに多くの新世界ザルでセントロメア反復DNA配列を調べた結果、①ほぼ全ての染色体のセントロメアにCENP-B ボックスを獲得している種(ワタボウシタマリン、コモンリスザル;◎)、②一部の染色体セントロメアにCENP-B ボックスを獲得している種(コモンマーモセット,ケナガクモザル;○)、③CENP-B ボックスを獲得していない種(アザラフクロウザル、フサオマキザル;×)がいることが明らかになりました(図:系統図とCENP-Bボックスの有無を示す)。さらに、CENP-B ボックスの位置や向きはそれぞれの種で異なっていました。これらの結果から、CENP-B ボックスは新世界ザルの共通祖先由来ではなく、進化の過程で反復配列に偶然に生じた塩基配列の変化によって、それぞれの種で独立に生じたものである可能性が示唆されます。染色体分配に必須なセントロメアをどのようにゲノムDNAと関連させるかについては、CENP-BとCENP-Bボックス間の相互作用に強く依存する場合やそうでない場合も見つかり、種ごとに多様であることが解りました。

セントロメアのDNA配列が変化したり、染色体上の位置が大きくずれたりすると、染色体分配に影響が生じ、同じ種として子孫を残すのは難しくなると考えられます。今回の研究成果は、セントロメア反復DNAの新たな機能獲得が、種の維持や進化の過程でどのように起こるのかについて極めて興味深い知見を与えてくれます。

研究成果は、6月16日のScientific Reports誌のオンライン版で公開されました。

この研究は、京都大学霊長類研究所との共同研究です。本研究ではかずさDNA研究所と京都大学霊長類研究所が同等に貢献しました。

図:系統図とCENP-Bボックスの有無を示す。
◎:ほぼすべてのセントロメアにある
○:一部のセントロメアにある
×:なし
赤字は今回の解析で明らかになったものを示す。

論文情報:
Kugou K, Hirai H, Masumoto H, Koga A.
Formation of functional CENP-B boxes at diverse locations in repeat units of centromeric DNA in New World monkeys.
Sci Rep. 2016 Jun 13;6:27833.
doi: 10.1038/srep27833.
論文のURL: http://www.nature.com/articles/srep27833

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