ヒト人工染色体(HAC)を用いて染色体の不安定化をスクリーニングする新たな方法を考案しました。

2016/5/9

研究開発

染色体の分配維持機構に乱れが生じると、染色体数の異常や細胞死、細胞のがん化など様々な悪影響が生じます。公益財団法人かずさDNA研究所ではこれまでに、本来の染色体と同等の分配維持機構を備えた、ヒト人工染色体(HAC)を作製しています。HACには、任意の遺伝子を挿入して、ベクターとして利用することができます。

がん細胞の多くでは、細胞増殖のコントロールが効かなくなり、細胞分裂に伴う染色体の分配に失敗する「染色体不安定性」が見られます。その結果、進行がんにはさまざまな染色体の異常を持った細胞が混在することになり、投薬による治療を難しくしています。もし、染色体の不安定化を正しくモニターすることができれば、副作用の少ない進行がんの治療薬開発につながります。

今回、染色体不安定性を検定する技術を開発する目的で、HACベクターにmCherry遺伝子(赤色の蛍光を発するタンパク質をコードする)と共に、宿主細胞に挿入したEGFP遺伝子(緑色の蛍光を発するタンパク質をコードする)の発現を阻害する塩基配列(shRNA)を組込みました。
このHACベクターを持つ細胞は、ベクター上のmCherry遺伝子が発現し、宿主細胞のEGFP遺伝子の発現が抑制されることにより、ある種の光を当てると赤く蛍光しますが、HACベクターが細胞分裂を通して正しく維持できずに脱落すると、その蛍光は赤から緑に変化します。

私たちは実際にこの細胞を用いて、染色体分配に影響を与える阻害剤や遺伝子の欠失による、染色体不安定性を検定できることを示しました。更に、多検体を同時に扱うことができるマイクロプレートリーダーを用いた、薬剤の大規模スクリーニングにも使用できることを示しました。

研究成果は、3月2日付でOncotarget誌のオンライン版で公開されました。
この研究は、NIH(米国国立衛生研究所)、英国エジンバラ大との共同研究です。

論文情報:
Kim JH, Lee HS, Lee NC, Goncharov NV, Kumeiko V, Masumoto H, Earnshaw WC, Kouprina N and Larionov V.
Development of a novel HAC-based “gain of signal” quantitative assay for measuring chromosome instability (CIN) in cancer cells.
Oncotarget. 2016 Mar 2.
doi: 10.18632/oncotarget.7854. [Epub ahead of print]

論文のURL:
http://www.impactjournals.com/oncotarget/index.php?journal=oncotarget&page=article&op=view&path[]=7854&pubmed-linkout=1