私達は、植物の分化全能性の鍵を握る「細胞分裂と分化の制御機構」について研究しています。最近の研究により、細胞周期の中心的な制御因子であるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性レベルにより、細胞増殖だけでなく分化状態も決定されることが明らかになりました。したがって、分裂組織(メリステム)で作られた細胞が個別の分化過程をたどる初期段階で、外的・内的シグナルに応答したCDKの活性制御機構が重要な役割を果たしていると考えられます。
(1)形質転換技術を利用して、シロイヌナズナの根においてCDK活性を誘導的に低下させる実験を行なった例です。実験開始後、 (A)0時間、(B)48時間、(C)60時間、(D)72時間目の観察結果です。青いスポットは細胞周期のG2-M期にいる分裂中の細胞です。時間が経つにしたがって細胞分裂が停止するとともに、維管束(矢印)が基部側から先端部に向かって分化していく様子がわかります。Cで見られるように、分化は細胞分裂の停止とは無関係に進行します。
(2)タバコの葉切片で、CDKの活性化因子であるCDK活性化キナーゼ(CAK)を誘導的に発現させた例です。通常、植物ホルモンの一つであるオーキシンを含む培地上では根の再分化が見られますが(左)、CAKを発現させるとカルスが形成されます(右)。これは、CAKの発現によりCDK活性が上昇すると根の分化が無秩序な細胞増殖に変換されたことを意味しており、CDKの活性レベルが分化状態を決定する主要な要因であることを示しています。