植物細胞は,完全に分化した組織,例えば葉の切片からでも脱分化という過程を経て,植物体を再構築する能力を持っている.これは分化全能性と呼ばれ,動物にはない植物特有の能力として知られている.
分化全能性の発揮に必須の初期過程のひとつが脱分化であるが,この過程にはオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモン以外に,新しい細胞間情報伝達因子が関与することが明らかになってきた.この因子がファイトスルフォカイン(PSK)である.PSKは,80アミノ酸程度の前駆体ペプチドとして翻訳され,チロシン残基の硫酸化および5アミノ酸PSKへのプロセシング(切断)を受けた後,細胞外へ分泌される.分泌されたPSKは,細胞膜上に存在するPSK受容体に結合し,細胞の脱分化に必要な情報伝達系を活性化する.最近,クローニングに成功したPSK受容体分子を手がかりに,今後,下流の情報伝達系の解明を精力的に進めていく予定である.

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