A HAR1を介した共生と器官形成の全身的制御システムマメ科植物は根粒菌と共生し,窒素固定器官・根粒を形成する。しかしながら過剰な根粒形成は宿主の負荷となる。この共生バランスを維持する制御システムは,根粒菌の感染を受けて根粒からシュート(植物の地上部)に送られる「感染シグナル」と、シュートから根に送られ,過剰な根粒の形成を抑える「オートレギュレーションシグナル」により構成されている。我々は,この全身的な制御システムを支える鍵遺伝子を,ミヤコグサ(日本に自生するマメ科のモデル植物)の超根粒着生変異体har1より同定することに成功した。
共生系の鍵遺伝子HAR1がコードするタンパク質はロイシンリッチリピート(LRR)をもつレセプターカイネースで,根からシュートへ送られる「感染シグナル」を認識していると考えられる。
B HAR1とCLV1の進化的関連 (LRRドメインに基づく分子系統樹)興味深いことに,HAR1と最も高い相同性を示すシロイヌナズナの遺伝子はCLAVATA1(CLV1)であった。CLV1は細胞間コミュニケーションを介して茎頂・花芽分裂組織での細胞増殖を制御することが知られている。CLV1におけるイントロンの数と位置はミヤコグサHAR1及びダイズNTS1で維持されていた。従ってHAR1,NTS1の起源はマメのCLV1ホモログと考えられ,マメと根粒菌との共進化プロセスにおいて,細胞間コミュニケーションを介して分裂組織の細胞増殖バランスを維持する遺伝子から,器官間コミュニケーションを介して共生器官の分化を制御する遺伝子へと、劇的な機能転換を遂げたと推測される。