
イネの縦方向の伸長を制御する3量体Gタンパク質の機能解明
福井県立大学生物資源学部 岩崎行玄、藤沢由紀子、加藤久晴
3量体Gタンパク質は、動物、植物、酵母などの真核生物に存在し、外界からのシグナル情報(ホルモンや光など)を、細胞内へ変換する働きをしています。図1に、その模式図を示しました。外界からのシグナルは、細胞膜上に存在する3量体Gタンパク質共訳受容体(GPCR)に情報を伝達し、その後、3量体Gタンパク質を介して、細胞内情報伝達因子(効果器)などを稼働させ、細胞内で種種の生化学的反応を誘起します。
私たちの研究グループは、イネを材料に、高等植物における3量体Gタンパク質の機能解析を行っています。私たちは、イネ3量体Gタンパク質αサブユニット遺伝子に変異が生じた変異体(大黒d1)を同定しました(図2)。この写真からわかるように、イネにおいて、3量体Gタンパク質αサブユニット遺伝子が欠損すると、矮性、短粒、濃緑葉などの特徴ある表現型を示します。この知見は、植物において、3量体Gタンパク質は形態形成に重要な働きをしていることを示しています。
3量体Gタンパク質αサブユニット遺伝子欠損変異体(大黒d1)を用いて、種種の生理実験を行ったところ、3量体Gタンパク質は、植物ホルモンであるジベレリン、光、病原菌の感染応答など、多様な情報伝達機構に関与することが示されました(図3)。イネにおいて、3量体Gタンパク質αサブユニットは1種類と考えられており、1種類の遺伝子産物が多様なシグナル応答にどのような仕組みで関与するかを解明することが、今後の課題です。
現在までに、3量体Gタンパク質αサブユニット遺伝子(RGA1),βサブユニット遺伝子(RGB1),γ1サブユニット遺伝子(RGG1),γ2サブユニット遺伝子(RGG2)、3量体Gタンパク質共訳受容体候補遺伝子(OsGPCR1,OsGPCR2,
OsGPCR3)を単離しました。αサブユニット以外は、どのような機能を有するか、いずれも未解明です。外来シグナル、その受容体、Gタンパク質制御下にある情報伝達因子群など、今後、解明すべき課題が山積しています。最終目標は、イネで3量体Gタンパク質が欠損すると、どのような理由で、矮性、短粒、濃緑葉になるかを説明することにあります。高等植物3量体Gタンパク質シグナリングの研究は、現在、スタートラインに着いた状態です。