一つの細胞から二つの違った細胞を作り出すメカニズム
長谷部光泰、藤田知道、村田隆(基礎生物学研究所)
http://www.nibb.ac.jp/~evodevo
 
 多細胞生物の発生は受精卵や幹細胞の不等分裂を出発点としている。不等分裂は特定のmRNAやタンパク質が細胞内で不均等に分布し、引き続く細胞分裂により異なる二つの娘細胞が形成される過程である。後生動物では、初期不等分裂を阻害すると前後軸を始めとした体軸形成に異常が生じることが知られており、不等分裂で不均等分配される因子が解明されつつある。しかし、不等分裂の結果分配されたどのような因子がその後の多細胞レベルにおける発生に関わる因子とどのように関係するかはよくわかっていない。一方、植物における不等分裂の分子機構はほとんどわかっておらず、まず、この過程に関わる遺伝子を単離解析することが植物の発生の分子機構を解明するうえで必要である。
 ヒメツリガネゴケの単細胞プロトプラストの最初の分裂は不等分裂である(図1-1は光学顕微鏡像、図2は同じ細胞の細胞壁を染色してある)。娘細胞の一つは動物の幹細胞のように未分化で分裂能を持ち続ける(図2左側の細胞)。もう一方の細胞は分裂をやめ分化する(図2右側の細胞)。そこで、ヒメツリガネゴケプロトプラストの不等分裂異常を引き起こすような遺伝子を単離して、機能解析を行うことによって、不等分裂の分子機構解明に迫れるのではないかと考えられる。実際にはプロトプラストに一過的に遺伝子を発現させて不等分裂に異常を引き起こすような遺伝子の網羅的探索を行っている。これまで約2000遺伝子について調べたところこのうち約50個の遺伝子で不等分裂が等分裂に変わる(図3)、本来分裂しない方の細胞まで分裂して多分裂状態になる(図4)、分裂せずに伸長する(図3)などの表現型が得られた。これらの遺伝子の不等分裂における役割を特定することを目標として研究している。

戻る