ハイブリダイゼーション実験に関してのQ&A (かずさDNA研究所 桑田主税)
1) ターゲットmRNA(標識するmRNA)の精製方法に関して
total-RNA、poly(A)-RNA、どちらを用いるのがいいのか?
アレイに供するRNAは、total-RNAをそのまま使う場合と、poly(A)RNAに精製して使う場合がある。前者は、サンプル時の植物体により近いmRNA集団を反映する。しかし、植物サンプルの場合は、夾雑物により逆転写酵素の活性が抑制されて、十分にラベリングされない可能性があるので注意が必要だ。poly(A)-RNAを用いたほうが無難だろう。
精製の方法
実験の反復と後にノーザン解析を行うことを考え、total-RNA100μg以上、poly(A)RNA2μg以上が得られるように計画する。
これまでに、使用したことのある方法・キットを挙げる。
・total-RNA 超遠心法、RNeasy(QIAGEN)、MagExtractor-RNA(TOYOBO)
・poly(A)RNA Oligo-dT30-super(TAKARA)、Micro-FastTrack(invitrogen)
mRNAのクオリティー
精製したmRNAの質(純度、長さなど)は、標識とハイブリに影響すると考えられる。現状では品質のチェックは難しく、比較するサンプルはできるだけ同条件で精製する。
2) ターゲットの標識
標識法
放射性同位元素33Pは測定範囲は広く、32P、 35Sよりも、きれいなシグナルイメージが得られる(Fig.6、98KB)。非放射性では、ケミルミでの測定が可能である。マイクロアレイで使われるCy3/Cy5はバックグラウンドとなるために使用できない。最近、近赤外波長域を2色で検出する標識方法が開発されてきている。この場合は、専用のスキャナーOdyssey(LI-COR)が必要である。
ターゲットに用いるmRNA量
mRNA量は、フィルターあたり100ng〜500ngが適する。100ngではシグナルが弱い場合がある。
cDNA合成とラベリング
oligo-dT-primerで逆転写を行う際に、dNTPのうちのdCTPの部分をα33P-dCTPに置き換えてラベルする。また、cDNA合成を無標識で行った後にランダムラベルする方法があるが、前者の方が安定した結果が得られている。逆転写される長さは、他の逆転写効率をみた実験から、3kbぐらいは逆転写されているようである。
3) ハイブリダイゼーション
用語の定義
サザン、ノーザン解析は液側が既知でプローブというのに対し、アレイでは、液側
の標識する未知のRNAをターゲット、フィルターに固定した既知のDNAをプローブとい
うことが多い。
ハイブリダイゼーション
ハイブリ後のフィルターの洗浄
最終的に63〜65℃で0.1×SSC液で洗浄を行う。ヘテロガスなプローブを用いる場合(シロイヌナズナ以外の植物mRNAを用いる場合)は、私たちは
Stringencyを 下げて、55℃-0.5×SSCで洗浄している。
シグナルの取り込み
洗浄後は、フィルターは乾燥させずに、気泡が入らないようにラップをし、暗黒下でイメージングプレート(IP)に当てる。気泡が入ると、ぼやけたイメージとなることがある(Fig.7、66KB)。
33Pは飛程距離が短いので、カセットに入れる際に厚紙を入れて、密着性を高める。取り込み時間は20〜24時間程度が目安である。3日間ではシグナルは濃くなるが、バックグラウンドは上昇し、データの再現性ではそれほど変わらない。
イメージの数値化
IPのイメージの取り込みには数種の機械が使われている。STORM(Silicon
Genetics社)は50μmの解像度があり、精度の高いデータを得ることができる。
現在のスポッティングでは100μm以上の解像度があればいいので、BAS2000(富士フィルム社)も使用できる。
取り込んだイメージ画像から、各スポットの値を定量するためには専用のソフトを
使用する。ArrayVisionはスポットを自動検出するアライメント機能において優れて
おり、使いやすい(Fig.8、41KB)。
4) データの解析
補正の方法
次の3つがある。マクロアレイは再現性は高いことから、総発現量で補正する場合が多い。
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総発現量補正 フィルターの総発現量は変わらないと考え、各遺伝子の総和や中央値で補正する。
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内部基準補正 いかなる条件でも安定して発現するいくつかのクローンの値で補正する。
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外部基準補正 ESTとハイブリしないRNAのcDNAをスポットし、標識前のターゲットRNAにそのRNAを一定量混ぜて、その値で補正する。
どの程度が有意な差か?
どの程度で差があるとみなすかは現段階では明らかではない。同じサンプルで、同じ逆転写反応で、同じバックでハイブリさせた場合でも発現の強弱に関わらず、クローンの1%程度は3倍以上の差があり、5倍以上のものもある。仮に、実験誤差で1%の確率で3倍の差があるクローンがあったとしても、実験を2回行えば、確率は0.01%となり、全13542クローンの1〜2クローンに相当する。1つの目安として、実験は2回は行った上で、「差が3倍以上で、2回の傾向が一致している」のであれば、十分に差があるとみてよいと考えている。この場合、フィルター上のDNA量の違いの影響もあるので、リプローブでは対照区と処理区のフィルターを必ず変えて使用する。さらに、その候補クローンは必ずノーザン解析で発現を確認する。
プロファイリング
プロファイリングはアレイ解析において重要である。膨大な遺伝子をプロファイリングするためには、専用のソフトが必要である。我々はGeneSpring(Silicon
Genetics社)を使っている。GeneSpringは同じ発現パターンをもつ遺伝子をクラスタリングし、既知のゲノム配列情報との関連づけが可能となっている。
5)その他
フィルターの再ハイブリ
マクロアレイフィルターはリプローブによる再利用が可能である。同一サンプルで3回までは高い再現性があることは確認している。しかし、リプローブしたものとしないものを比べると、再現性は高くない(Fig.9、42KB)ので、同じ回数・同じ条件でリプローブしたもの同士で実験に用いた方がよい。