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研究成果

セントロメアの構造形成に関わる、新たな進化的発見が得られました。

2016年5月9日

 公益財団法人かずさDNA研究所では、これまでに、細胞増殖を通じて安定に分配維持されるヒト人工染色体(HAC)の研究や、染色体分配に関わるセントロメア構造の研究を行っています。

 セントロメア領域には、染色体分配やDNAの凝縮に関わる数多くのタンパク質が集まっています。このうち、CENP-Bタンパク質は、セントロメア領域の反復DNA配列にあるCENP-B ボックスと呼ばれる17塩基対の配列に結合するタンパク質で、セントロメアの構造形成に関わることが知られています。CENP-Bタンパク質は、ほとんどの哺乳類が持っている、進化的に保存されたタンパク質ですが、マウスでCENP-Bタンパク質を人為的に欠失させても生育可能なこと、ニホンザルなどCENP-Bボックスが見つかっていない哺乳類もいることから、ヒトのセントロメアの成り立ちを探る意味でも重要な機能を持つと考えられています。

 進化的にみると、ヒトやゴリラ、チンパンジーのセントロメア領域の反復DNA配列中には、CENP-Bボックスが見られますが、ニホンザルやアフリカミドリザルなどの進化的に古いサル(旧世界ザル)には見られないことから、長らく、CENP-Bボックスは、霊長類ではヒト科のみに存在すると考えられていました。

 今回、南米に棲息する新世界ザル、コモンマーモセットのセントロメア反復DNA中にCENP-Bタンパク質が結合可能なCENP-Bボックスが存在することを発見し、抗体による細胞染色でセントロメアの構造形成に必須な目印であるCENP-Aタンパク質と同じところにマーモセットのCENP-Bタンパク質が分布していることを明らかにしました。

 この研究成果により、これまでは霊長類ではヒト科にしか見つかっていなかったCENP-Bボックスを、新世界ザルは進化上独立して新たに獲得している可能性を示しました。

セントロメア領域は繰り返し配列が多く、ゲノムが公開されているボノボなどでもセントロメア領域の配列の解析は進んでいません。セントロメア領域の違いは、染色体構造の変化をもたらすことから、種の分化につながる可能性があります。

 研究成果は、3月30日のBiology Letters誌のオンライン版で公開されました。
この研究は、京都大学霊長類研究所、タイKasetsaet大学との共同研究です。本研究ではKasetsaet大学とかずさDNA研が同等に貢献しました。

図:系統図とCENP-Bボックスの有無を示す。
◎:ほぼすべてのセントロメアにある、○:一部のセントロメアにある、×:なし。
赤字は今回の解析で明らかになったものを示す。

論文情報:
Suntronpong A#, Kugou K#, Masumoto H, Srikulnath K, Ohshima K, Hirai K and Koga A: # equally contributed
CENP-B box, a nucleotide motif involved in centromere formation, occurs in a New World monkey
Biology Letters, 30 March 2016.DOI: 10.1098/rsbl.2015.0817 

論文のURL:
http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/12/3/20150817